アドラー心理学を取り上げた『嫌われる勇気』の感想とまとめ。

人は常に他人との関係の中で生きています。そして、できれば人から好かれたい、少なくとも嫌われたくはない、そう考えている人も多いのではないでしょうか。

もちろん嫌われるよりは好かれるほうがいいですし、そのほうが人生が充実するでしょう。

しかし、人に嫌われないように生きることは、人に気を使いながら生きることでもあります。できるだけ人から嫌われないように、そんな思考が癖になってしまえば、他人の期待に応えることが人生の最優先事項になってしまいます。

そんな生き方をしてしまっている人や、そんな自分を変えたいと思っている人にぜひ読んで欲しいのが「『嫌われる勇気―――自己啓発の源流「アドラー」の教え』」です。

目次

  • 第一夜:トラウマを否定せよ
  • 第二夜:すべての悩みは対人関係
  • 第三夜:他者の課題を切り捨てる
  • 第四夜:世界の中心はどこにあるか
  • 「いま、ここ」を真剣に生きる

アドラー心理学の入門書

この本はアルフレート・ アードラーが提唱する「アドラー心理学」をテーマにしたものです。

日本ではほとんど知られていませんが、世界的にはアドラーはユングやフロイトなどと並ぶ深層心理学の巨匠とされています。しかし、彼が提唱する「アドラー心理学」はトラウマの存在を否定するなど、ユングやフロイトの理論とは大きく異なる内容となっています。私たちにとって受け入れがたい主張も多くあります。

本の内容は「アドラー心理学」を熟知した「哲人」と、そのもとを訪れた「青年」による対話形式でつづられます。「青年」がアドラー心理学について抱く疑問に「哲人」が答えていく、という流れです。

「青年」は現代の私たちを象徴した存在といえます。彼の疑問は「アドラー心理学」に接した多くの人が感じるものであり、その疑問に「哲人」が答えていくことで、私たちが「アドラー心理学」の本質を理解しやすい構成となっています。

人生は他者との競争ではない

他人と自分を比較すること、他人と競争することを人生の目的にしている人は幸せになれないとアドラーは主張しています。

対人関係の軸に「競争」があると、人は対人関係の悩みから逃れられず、不幸から逃れることができない。

常に他人と競っていたり、競争に勝つことが人生の目的になってしまうと、その生き方はつらいものになります。なぜなら、競走には必ず勝者と敗者がいるからです。

勝ったときは気分が高揚し、大きな幸せを感じるかもしれません。しかし、負けたときには大きな無力感や劣等感を味わうことになります。勝つことが目的の人生であれば、負けた人生は目的を達成できなかった人生ということになってしまいます。

しかし、一生勝ち続けることは不可能です。オリンピックで金メダルをとった人や、ギネスブックに載るような偉大な記録を作った人であっても、そのあとの死ぬまでの間には負けを経験したり、記録を塗り替えられたりするでしょう。つまり、競走に勝つことを人生の目的にした時点で、その人生は間違いなく目的を達成できなかった人生ということになるのです。

しかし、ときに競争は人を成長させる原動力にもなります。競走のない人生は、成長のない人生かもしれません。この点についてアドラーは、他人と競走したり比較するのではなく、今よりも前に進もうとする意思こそが大事、としています。

誰とも競争することもなく、ただ前を向いて歩いていけばいいのです。もちろん、他者と自分を比較する必要もありません。

いまの自分よりも前に進もうとすることにこそ、価値があるのです。

ただ今を懸命に生きる。それだけで人生は価値があるものになるのです。

承認欲求を捨てる

アドラー心理学では、他人との競走を否定するとともに、他者から承認を求めることにも反対しています。

私たちの多くは、子供のころは親や先生から褒められることを、社会人になれば同僚や上司から認められることを、会社での地位があがれば部下や社会から尊敬されることを望むのではないでしょうか。しかし、アドラー心理学では、それらすべてを否定します。

なぜなら、承認を求めることは他人の期待を満たすように振る舞うことであり、生活の全てがそうなってしまえば、その人生は自分ものではなく他人のためのものになってしまうからです。

この点について、本書では次のユダヤ教の教えを引用しています。

「自分が自分のために自分の人生を生きていないのであれば、いったい誰が自分のためにいきてくれるだろうか」

自分自身だけが本当の意味で自分のことを考え、自分自身のために生きることができ、この世に産まれた私たちがそうしていけない理由などないのです。

他人から承認を求める考え方・生き方を辞め、自分が自分自身のために行動しなければ、本当の人生を生きることはできません。

他人にも自分の期待に従うことを求めない

そして忘れていけないのが、他人もまた、あなたの期待を満たすために生きているのではなく、あなたの期待どおりに行動することを求めてもいけない、ということです。

日常生活を振り返ってみると、他人にたいして自分の期待通りに振る舞うことを求めていることがよくあります。

もちろん明文化されたルールやマナーを守らない人は論外です。しかし、自分の中で作り上げた『こうするべき』というルールやべき論を基準にし、期待通りにならない人に苛立ちを感じたりすることはないでしょうか。

「この状況ならこう行動するのが当然だ」「どうしてこんなこともわからないんだ」「なんて気が利かないんだ」 こんなふうに考えることの多くは自分の価値観の押し付けだったりします。

もし他人の期待を満たす人生ではなく、自分自身の人生を生きることを選択するなら、他人も同じように生きることを許容しなければいけません。

「嫌われる勇気」をもって自分の人生を生きる

他人の期待を満たす人生では本当の自由を得ることはできません。しかし、自由のために他人の期待を無視して生きれば嫌われることも多くなるでしょう。つまり、「嫌われる勇気」がなければ自由に生きることはできないとアドラーは主張しています。

本書における核心的な主張と思われる1文を引用します。

他者の評価を気にかけず、他者から嫌われることを恐れず、承認されないかもしれないというコストを支払わないかぎり、自分の生き方を貫くことはできない。

他人に嫌われないように生きることと、自分のために自分らしく生きることは、絶対に相いれないものということですね。

人間関係で悩んだときに読み返したくなる本

他者から嫌われないように生きるということは、傍若無人に振る舞うことを認めることでも他人を完全に無視して生きるということでもありません。

本書では、自分の人生を生きながらも他者との関係性を維持し、幸福に生きるための考え方についても言及しています。

詳細が気になる方は本書を実際に読んでみることをお勧めします。全ての内容を理解したり同意することはできないかもしれません。それでも、人間関係で悩んだりしたときに参考になる考え方を多く得られる本だと思います。

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